スイミングの原理: もっと速く楽に泳ぐ TIスイム創設者 テリー・ラクリン

 2016年8月10日
私の最近のスイミングの原理に関する投稿は、読者からかなりの反響を得ており、沢山の感謝のコメントをいただいています。しかし、ある読者から疑念のコメントをいただきました。それは「速く泳ぐためには、一生懸命泳ぐ必要がありますよね?」というものでした。以下は、そのコメントからの抜粋です。

「はじめに、25mもやっとだったこの私が、TIのおかげで1日で1マイル泳げるようになったことにとても感謝しています。しかし、みんなが避けている事実は、速く泳ぎたかったら、疲れる覚悟が必要だということです。汗一つかかずに速く泳げるようになるというのは、とても考えられません。」

この方のコメントへのもっとも簡潔な答えは、私が話してきた原理の中で、「スイマーは、全く疲れを感じることなく最高のパフォーマンスを発揮することができる」とは示唆していないはずです。ここでもう一度要約させていただきます。

原理1: 陸上で生活するように適応してきた人間が、水中でのスキルを習得するのに直面する難題や状況を説明しています。

  1. 特に年を取ると、私たちのフィットネスの向上には限界があります。しかし、エネルギー消費マシンである人間として、エネルギーを節約するメリットは無限です。なので、そこにもっと焦点を当てるべきなのです。
  2. 私たちがエネルギーを節約するために行うほとんど全てのことは、(1)直感で分かるものではなく、(2)社会一般の通念に反しています。 つまり、自動操縦によるスイミングをするのではなく、解析して練習時間の使い方を決めることが必要なのです。
  3. 効率性は自然とは生まれてきません。しかし、何千人ものTIスイマーがしてきたように、「習得」することはできます。効率性を改善するためには、私たちは徐々に、しかし着実に努力する必要があります。
  4. 流線型の船の形を作ることの方が、力強い推進力よりも大切です。 この原理は、多くのスイマーやコーチに無視されていますが、造船学やフィッシュスイミングを研究している人たちの間では広く受け入れられています。
  5. ストロークの1つ1つの動きが、他の動作全てに影響します。そこで、私たちはこれらの技術を「ホリスティックシステム」として扱い、統合的に練習すべきなのです。ストロークやボディーをバラバラに練習しないことが大事です。

中核原理 は、習慣的になった行動や考え方に取り組むものです。

  • 改善に重点を置く:距離や心拍数もトレーニングの要素ですが、最初に取り組むべきものではありません。
     
  • 無駄がなく持続性のある練習をする:動作や力を増やす前に、それらを減らしてもできることを探ってみてください。これは上記1番の結果として生じます。
  • 無理をし過ぎない:これはスイミングだけでなく、人生に置いても役に立つと、多くの人が感じています。しかし、スイミングにおいてはもがくことは原始的本能なので、意識的に避ける必要があります。
     
  • スイミングは気持ちの良いものであるべき:泳いでいる時、泳いだ後、そして長期にわたって、気持ちの良いものであるべきなのです。気持ちが良いと感じることは、ほとんどの場合「良いこと」なのです。そして、今までで一番速く泳いだとしても気持ちが良いと感じるのが理想的です。
     
  • スイミングで自分自身に自信を持つ:そうでなければやる意味がない。

今まで全米選手権や国内記録に向けて選手をコーチしてきた者として、また、その両方を中年になってから達成した者として、上記の原理とスピードの探求との間に矛盾は見られません。それどころか、これらの原理は、最も合理的で効果的なスピードトレーニングにおいて、強力な基礎になると信じています。

多大な努力よりも賢い選択
記録を伸ばすには、減法と加法の2つの方法があります。もっとも楽に達成できるのは減法で、最初に追及するべき方法です。無駄なエネルギーや抵抗を減らし、不規則なペースを取り除きます。ストローク率の向上やストロークによる圧力の増加など、加法に取り掛かる前に、減法から得るものを最大にします。私が40年以上もの間に指導、監修してきたスイマーの99%は、減法のアプローチによって、満足度の高い結果を得ることができる状況にありました。「減らす最初の探求」とでも言いましょうか。

加法と言っても、やみくもに頑張るのではありません。汗をかくほど頑張る必要はないのです。数学に取り組むようなつもりでスピードを扱ってください。つまり、ほとんどの場合、賢い選択が「頑張る」ことをしのぐということです。
ストロークの長さxストローク率 = 速度 これについては、次回の投稿でお話ししようと思っています。

もっと速く楽に泳ぐ
デス・ジョンストンさんからEメールを受け取りました。以下の本人の話は、速く泳ぐための減法アプローチの最も良い例のひとつです。

「私は、少なくとも去年までは、典型的なラップスイマーでした。仲間のラップスイマーの様に、私もスイミングを運動の一種として見ていました。なので、技術への関心よりも、より多くのラップをより努力してこなすことに関心を持っていました。しかし、肩の痛みと伸び悩み、満足感が得られないことから、トータルイマージョンに興味を持ち始めました。

トータルイマージョンを取り入れる前、私のストローク数は1分に60回で、100mのペースは2分30秒でした。私はバランスと息継ぎが下手だったのと、ストロークの交差がひどかったので、速くなろうと一生懸命でしたが、息継ぎが上手くできないせいで、150m以上泳ぐのは困難でした。

今年の初め、TIの独習DVDを使って、泳ぎ方を改めて練習し直しました。スーパーマングライドでバランスを、スケーティングでストリームラインを、リラックスしたリカバリーで体幹の安定化をそれぞれ練習しました。そして、リラックスすることでストロークの全ての動作が改善されたのです。TI技術のシーケンスによって、リラックスしながらも効果的な2ビートキックが自然とできるようになりました。

効率的なストロークを習得したことによって、今は100mを1分40秒で泳げるまでに上達しました。1分50秒以上かかることはほとんどありません。そして、1回のストロークで前より長い距離を進めるようになったため、1分のストローク数が大体40回になりました。つまり、ストローク自体は約30%遅くなったにも関わらず、泳ぐペースは約30%速くなったのです。

鍵はリラックスすることでした。水に身体を支えてもらうのです。(リラックスしたスーパーマングライド、スケーティング)リカバリーの腕も、前に伸ばした腕もリラックスさせます。焦らずキャッチで水を軽く押します。 キックでも力を抜きます。たまに私はリラックスし過ぎて、泳ぎながら目をつぶっている時があります。

TIを習うことによって、私の目標は変わりました。今はスイミングで、健康、幸福、楽しむことを優先にしています。スピードは自然とついてきます。」

不老のポール・ルーアー医師、97歳で上達
https://youtu.be/95BzvmRTpAk

元小児科循環器専門医であるポール・ルーアー医師のことは、今までブログで何度か話題に挙げてきましたが、彼は68歳から93歳までアルバニー医科大学で教鞭を執った後退職し、ニューパルツにあるシニアホームに移り住みました。そこでルーアー氏はコーラス、木工、スイミングを始めました。ウッドランドポンドに移ってからは、TIの独習ツールを使い始め、バランスが取れ、リラックスしたストロークを自分自身で身につけました。そして、94歳の時に私のレッスンを4時間受けました。このビデオは、それから1年後の95歳の時に撮ったもので、ルーアー氏と私の泳ぎはシンクロしています。

ミネワスカ湖でマリリンさん、ルーアー氏と。(2014年8月18日)

その後ルーアー氏は、ウッドランドポンドの50フィート(約15m)のプールで、クロール2セットと背泳ぎ1セットの組み合わせで、20セットの練習を毎日やり始めました。定期的に時間も計り、 初めて計った時は、22分を超えていました。

多くの90代の人がそうであるように、ルーアー氏も心房細動を患っています。1セット泳ぐ度に彼の心拍数が上がるので、心拍数が下がるまで1セット毎に休憩をする必要がありました。そして、20セットの時間を計る時には、休憩時間も含めています。しかし、効率性とリラクゼーションを向上し続けた結果、休憩時間を短くしていくことができたので、合計タイムも徐々に向上していきました。

2014年の初めには、96歳という年齢で、ルーアー氏のタイムは17分台までになったのです。そして、この時点で彼は、2ラップを続けて泳げるまでにリラックスして泳げるようになっていたので、オープンターンを教えて欲しいと私に言ってきました。

彼のタイムが16分を切った時、ラップを数え間違えたと思い、TI仲間のマリリン・ベルさん(オンタリオ湖を初めて泳いで渡ったスイマー。1954年当時16歳)に、彼のラップ数とタイムを計るように頼みました。結果は、15分46秒でした。その時ルーアー氏は、それ以上無理をするのは96歳という高齢の健康に良くないので、これ以上の記録は望まないと言っていました。

去年の冬、マリリンさんから、ルーアー氏のタイムが14分6秒になっている旨の連絡がありました。そして今週また彼女からiPhoneの写真が送られてきました。それは12分15秒というルーアー氏の新記録でした。もうこれ以上は速く泳がないと言っていた記録から3分半も速くなっていたのです。

これだけタイムが上がったのは、努力したからではありません。彼の年齢でそんなことをしたら危険です。彼は、心拍数を上げ過ぎることなく、よりリラックスして泳ぐことができるようになったのです。心拍数を低く保ったまま、より長く泳げるようになり、休憩も短くて済むようになったのです。

新記録を達成した後、ルーアー氏は以下のメッセージを送ってきました。

「テリーさん、おはようございます。
全ての動作をリラックスして行えるようになったので、息継ぎを短くして、その分泳ぐことに使うようにして練習しました。

私は自分に『操り人形、操り人形』(TIのフォーカルポイントで、リカバリーで腕の力を完全に抜くこと)と言い聞かせながらずっと泳いでいました。

私は高齢者の運動生理学について知ってるつもりでしたが、自分のタイムがこれほどまで上がったことに、正直驚いています。」

ルーアー氏は今年の10月に98歳になります。彼は20セットのタイムを96歳の時に計り始めてから、25%も短縮したのです。

次回の投稿では、今月の初めに行われた世界選手権でのケイティ・レデッキーさんの素晴らしいパフォーマンスを例として、タイムを伸ばすためのさらなる方法を紹介します。

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