ストロークドリル:パーソナルヒストリー パート2 TIスイム創設者 テリー・ラクリン

 2015年12月10日
20年近く子供たちや大学生を指導した後の1988年から1989年にかけて、私は人生を変えるような3つの経験をしました。

・16年間の中断の後、スイミングを再開する。
・新しい見解を持ったコーチのビル・ブーマーさんに出会う。
・ほとんどが初心者の成人の指導を始める。

スイマーとして再生
16年もの隔たりがあったにもかかわらず、数ヶ月トレーニングしただけで、私は1988年8月の全米マスターズ選手権に出場することができました。 私のタイムはそれほど良くありませんでしたが、会場の雰囲気を楽しんだと同時に、50歳以上の選手達が、37歳だった私と比べても、とても壮健で速く泳げることに感心しました。

大学生の時は、次の大会でライバルに勝つ等、目先の目標を達成するための、短期集中型トレーニングに取り組んでいましたが、37歳になり、この先何十年も壮健な身体を保つためのスイミングを考えるようになりました。と言っても、スイミングに秀でたいという気持ちは、それまでと変わりありませんでした。そして、20年前に出していた記録に、どれだけ近づくことができるかにも興味がありました。

徹底した見直し
マスターズ選手権の1ヶ月後、指導者クリニックでスピーカーとして参加した時、スポーツよりも学術的に優れていることで有名な、ロチェスター大学のスイムコーチであるビル・ブーマーさんの話を聞く機会を得ました。

1962年、当時のロチェスター大学のスイミングコーチが辞めた時、ブーマーさんは同大学で運動学を教えながら、サッカーのコーチをしていましが、体育局長から彼の後任を頼まれました。しかし、ブーマーさんは水泳大会を見たことさえありませんでした。

しかし、彼の新鮮な目と運動学の知識が、今まで他の人が考えつかなかったような真実を明らかにすることとなったのです。それは、「エンジンの大きさより船体の方が重要である。」ということです。つまり、抵抗を少なくすることの方が、推進力を上げることより大事だということです。

私は25年間スイミングとその指導に携わってきましたが、これが、私が初めて聞いた、抵抗を減らすことの重要性の言及でした。しかし、10年前、初めてチームの練習を水面下の窓から見た時から、私は似たような洞察を持っていました。プールサイドからでは気付くことができないであろう2つの現象に、呆然とさせられたのです。

  1. 壁や床を蹴った後、ストリームラインを綺麗に保ったスイマーは、そうでないスイマーに比べて、著しく速く、長く進む。
  2. ストロークを始めた途端、全てのスイマーのスピードが明らかに落ちる。

そこで私は、もしストローク中の水の抵抗を最小限に抑えることができたら、大きな改善を期待できるのではないかと思ったのです。このスキル(TIでは「アクティブストリームライン」と呼ばれる)は、その時点では知られておらず、どのように行うかを示すガイドラインも見つけられませんでした。16年間指導クリニックに参加してきて、いつも耳にしたのは、稼動力を高めること でした。ブーマーさんは、私の洞察を正当化してくれた初めての人でした。

そして、私がそれまで知っていた全てのドリルでも、抵抗力を減らすことではなく、推進力を上げることに重点的に取り組んでいました。しかし、それは大きく変わることとなりました。

バランスとの出会い
ブーマーさんは話の中で、効率的で低抵抗のスイミングの“譲れない基盤”は、バランスであると断言しました。スイミングに関連して、私が初めて耳にする言葉でした。数週間後、私はロチェスター大学を訪れ、彼の指導を見学させてもらいました。練習後、私は水に入り、「Tを押す」ドリルを彼に教えてもらいました。(現在のTIの「床を蹴った正面倒れこみドリル」に類似しています。)

床を蹴った正面倒れこみドリル
ブーマーさんの指導で、頭から腰を一直線上に伸ばし、胸に体重をかけながら、腕を身体の横につけたままキックしました。私は25年間ずっと、自分の足は重いと思っていました。しかし、これを1分ほど繰り返している内に、初めて自分の足が軽いと感じたのです。これほど飛躍的な変化を経験したことがなく、それもあっという間に起こったので、とても驚きました。

それから半年間、他の事はほとんど考えず、頭から一直線にすることと、前のめりになることだけを考えて泳ぎました。次の春のマスターズ選手権では、初めてバランスストロークを使ってレースに臨み、自分でも驚くほどのタイムで、500ヤードと1000ヤードの自由形でメダルを獲得したのです。また、足に疲れを感じなかったことにも驚きました。大学時代は、毎日キックの練習に取り組んでいたにもかかわらず、レースの最後には、足はいつも疲れ果てていました。

1ヵ月後、コルゲート大学で初めてのTIキャンプを開催しました。ほとんどの成人の参加者は、スイミングを数十年やってきた方たちで、その内1人は、1948年のカナダオリンピック代表選手団に選ばれていました。彼らの技術の習得への情熱と進歩は目を見張るものがありました。

初心者の指導
それからの数年の夏のキャンプでは、トライアスロン選手の参加者がどんどん増え、参加者の70%を占めるようになりました。 大勢いる初心者の多くは、スイミングを始めて数ヵ月後に長距離オープンウォータースイムに参加する等、私が過去20年聞いたことのないような目標を持っていました。

1989年から1990年にかけて、私のキャンプの参加者は、ほとんどが中高年でしたが、私が何十年も教えてきた推進力を課題としたドリルでは、前に私が教えていた若いスイマーと同じくらいの成果を見せてくれました。1週間の厳しいドリルとスキル練習で、5〜10年間のトレーニング以上に上達したと言っている人も何人かいました。

しかし、わずかに経験のあるトライアスロン選手たちは、比較的強いキックに頼ることに慣れていたので、これらのドリルを行って、上達するどころか、下手になっているように思えました。1つのドリルを終わらせるのにも手こずっており、疲れ果てて、もう一度トライする前に数分間休まなければならない人もいました。 彼らにフィンを着けてやらせると、ドリルのセットを速く楽にこなせるのですが、フィンを外した途端に、うまくできなくなってしまうのです。

解決方法
ブーマーさんのバランスドリルで自分が経験した変化を思い出し、水をかく、蹴るの代わりに、身体のバランスと伸び、直線を意識した練習を試してみました。結果は、驚くべきものでした。

今までは最低でも数ヶ月かかるとされていた過程を、全く初心者の方たちは、あっという間にこなし、一晩で有能なスイマーに生まれ変わりました。経験のあるスイマー達にも、初心者たちと同じ位、この練習がプラスになったようでした。私と仲間のコーチたち(その内数人は、何十年もの経験を持つ)は、その素晴らしい飛躍に驚かされました。

それ以来、自分で練習するため、または人に教えるために私が開発したドリルは全て、推進力より姿勢を重要視するというルールが基盤となっています。つまり、抵抗を減らすことだけではなく、水の中で身体を楽にし、コントロールする感覚を身につけることも大事だということです。

推進力の要素を含むドリルでも、まずアクティブストリームを意識します。水をかいたり蹴ったりする時、どのように手足を動かして水を押すかではなく、どのように手足を使って抵抗や乱流を減らすかの方が大事なのです。

船体(姿勢)の優位性は、私がドリルを作る上で、2番目に重要な要素です。この連載のパート3では、ドリル練習とストローク全体に取り入れる上で、的を絞った、たゆみない意識の重要性について説明します。

 ©Easy Swimming Corporation