ストロークドリル入門 TIスイム創設者 テリー・ラクリン

 2015年7月10日
この1年ほどは、家庭の事情等で、ブログは不規則で、あまり頻繁には投稿できていませんでしたが、やっとまた定期的に投稿できるようになりそうです。毎週火曜日には、新しいブログを投稿する予定でいます。 読者の方々にとって、興味深く、価値があり、毎週楽しみにしていただけるようなものをお届けきればと思っています。

興味深い話に出くわしたり、ゲストによる投稿などがある場合は、週に2回以上ブログを投稿する場合もあります。

定期的なブログ再開と同時に、新しいことも始めます。最初に、ひとつのトピックに焦点を当て、密接に関係した投稿も加えて、2〜3ヶ月かけて掘り下げていこうと思っています。

今回私が選んだトピックは、ストロークドリルです。まず、ドリルによってストロークにどのような改善を期待できるか、 以前行っていたドリルの紹介、ドリル内容の変更とその理由、そして、現在のドリルがどのように確立されたかなど、ドリルの歴史を簡単に紹介します。また、ドリルの方法が、この20年以上もの間に、なぜ根本的に変わったのかもお話します。このシリーズで十分な知識を得ていただいて、ドリルを選択すること、そして、ドリルから成果を得ることに役立ていただければと思います。

ストロークドリルとその効果
ストロークドリルは、主に技術を変えるための練習です。そして、その練習は以下の目的のために、ストロークの動きを部分的に切り離して行います。

1. 複雑なストロークを細分化することによって、新しいストロークを一から習得しなおす。

  1. 基礎技術の組み合わせ。
  2. 比較的楽に早く習得可能な細かい技術のシーケンス。

 細かく切り離した動作を繋ないで論理的なシーケンスにし、1つのストロークに仕上げます。全体的なストロークは、最初機械的な動きに感じるかもしれませんが、練習を重ねる毎に、シームレスで滑らかな動きになっていきます。

私は40代後半にクロスカントリースキーの「スケーティング(フリー)走法」を習っていた時があるのですが、その時の経験が良いヒントになりました。スケーティングは、クラシックとは著しく違い、かなり複雑です。クラシックの経験が10年あったにもかかわらず、私の最初のスケーティングのレッスンはまるで、スキーを一から習っているようでした。

そのレッスンでは、5つのドリルをやりました。最初は、スキーを片方だけ着け、ストックなしでの練習でした。次の2つのドリルでは、スキーは両方着けましたが、うまくできるまでストックはなしで行いました。私の最初の試みは、正直酷いものでしたが、たまに新しいドリル(上り坂など、特定の状況でのドリルなど)を習いながらレッスンを続けました。

ドリルは非常に貴重なもので、スキーの上達にとても役立ち、時折ゾクゾクするほど気持ちよく滑ることもできました。私は常に、セッションの初めに15〜30分かけてドリルを行い調整し、それからトレイルを滑るようにしていました。その方がうまく滑れるだけでなく、プラシッド湖にあるバン・ホエベンバーグ オリンピックスキーセンターで滑っていた上級者たちが、200mの平らな場所で、よくそうやってフォームを調整しているのを見たからです。

2. 既存の技術を改善する。
ゆっくり泳いだり、動作を止めたり、細分化したりしながら、普段見逃しがちなフォームの側面に対する意識を高め、修正や改善に努める。

ヨガにこの類似性が見られます。ヴィンヤーサ・ヨガは、呼吸と動作を連動させ、ベーシックなポーズをゆったり行う一般的に知られているヨガです。私はたまたま最初の数年間、アイアンガー・ヨガを習っていました。アイアンガー・ヨガは、1つのポーズを集中して5〜6呼吸分保ちながら、常に細かい部分を確認、微調整し、緊張を解き、形を整えていきます。

私が始めてヴィンヤーサのクラスを取った時、それぞれのポーズ間の関連性をさらに深く理解することができました。さらに気付かされたのは、1つのポーズから別のポーズへと継続的に移行する時、正しい形に修正/調整する準備が私にはできていたということです。

これは、TIを始めた頃と全く同じでした。クロールのストロークが、水中ヴィンヤーサであることに、私は直ぐに気がつきました。スイマーは、いくつかの重要な姿勢移行を素早く行うので、効率を損なう可能性が高くなるような重大な間違えに気付く時間的余裕がありません。継続的な流れのヴィンヤーサ・ヨガでさえ、3〜4秒間(息を吸うか、吐く時間)の、姿勢を確認して修正する時間があります。

その一方、クロールのストロークは、1秒ほどしかありません。その1秒の間に、4〜5つの重要な局面(息を吸う、リカバリーで肘を肩の横を通す、入水する、十分に腕を伸ばす、水に圧力をかけ始める) があり、それぞれを数分の1秒で行うことになります。 

そこで、これらの重要な局面をヨガのアーサナのように扱えばいいのではないかと考えました。ゆっくり、そして動きを止めながら、細かい動作を敏感に感じ取り、改善に役立てます。そして、その役目を果たしているのが、TIドリルです。

3. 筋肉の記憶の変化に対する抵抗を克服するツールを提供する。
ストローク全体の技術(頭を上げずに息継ぎをする、早いタイミングでストロークする、リカバリーからの横の動きを無くす等)を著しく変えるのが難しい

もう1つの理由は、特定の方法で何百万回もストロークを繰り返してきたことで、それが習慣的パターンとなって体に染み付いていることです。しかし、ストロークのドリルは細分化して行うため、神経系はストロークとして認識せず、体が覚えている無意識の反応が稼動する確率は低くなります。細分化した動作を修正した後、つなぎ合わせてひとつのストロークに仕上げる時には、自分の体が覚えている「泳ぎ」として考えるのではなく、新しく習得した感覚を順番につなげることに集中するようになります。

次回は、1973年から2015年にかけての私の個人的な経歴とストロークドリルの関係について、スイマーとコーチの両方の立場からお話しします。

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