Swim Like Shinji:キックに関する考察 トータル・イマージョン代表 竹内慎司

 2015年7月10日
○6ビートを検討することになったきっかけ
これまでバタ足は疲れるものとして2ビートキックを磨き、スナップ型のキック(フリックスタイル、別名「Shinji-style」)を生み出した。ムチがしなるように素早く足を動かし、動かした後にホームポジションに戻すことで抵抗を減らすスナップ型のキックは、この10年で地位を確立したと言える。

しかしスナップ型のキックの振幅を抑えたまま(かかとを上げずに)からだの回転動作につなげようとすると、ひざと足首をひねる動作が加わり、足がつる原因になる。足がつるのを恐れてキックをしないと、海ではうねりに負けてしまう。

ロットネストでうねりに翻弄されている自分の泳ぎを見たことで、うねりの中でもからだを安定させる6ビートキックの必要性を感じた。

○2ビートキック学習の弊害
2ビートキックは手の入水動作(あるいは水中のプル動作)に合わせて足を動かすだけなので、回数も少なくカンタンで取り組みやすいとの印象を与える。

しかしバタ足が苦手でスケーティングキックやスイングスケートを練習していないと、2ビートのときの足の動かし方が陸上と同じ「蹴る動作」となり、かかとを引き上げることで水の抵抗が急激に増えるだけでなく、前後左右のバランスも悪くなる。この結果足の甲だけでなく足のすねも使って水を下に押す動きとなり、上下動も大きくなる。

2ビートキックでバランスが崩れる場合、まず6ビートで下半身を安定させることが優先される。このように指導上の観点からも6ビートを導入する必要性を感じていた。

○水中の足の動作の本質
バタ足=6ビートキック(厳密に言えば違う部分がある)を学ぶにあたり、最初に使ったのが小さなフィンである。足の周囲を3cm程度大きくするもので、推進力を強化する用途ではない。しかもゴムが頻繁に外れるので、思い切って足を動かすことができない。

このフィンを使っているうちに、「足の甲で水を支える」感覚がわかってきた。これは水中の手の初動と同じである。足の甲で水を支え、それをてこにして膝を曲げ伸ばしすると、非常にラクに足を動かすことがわかった。

このような足の動かし方がわかると、フィンを外しても「スカスカ」にはならない。足はその場にとどまっているだけなので、フィンがなくてもとどまることができる。ひざを曲げ伸ばしすると「結果として」足の甲で水を押すことができるようになる。

さらにアンクルストラップで足首を固定させると、足の動作の本質が見えてきた。足首が支点となる「てこ」の動きである。従って足首は動かない。アンクルストラップで足首がしばられていても、キックができることがわかった。最初は足の甲を力点にしていたが、ひざを伸ばす動作を力点にすることで足の甲で水が押せることもわかった。ひざから足首までの距離が長いので、ひざに小さな力を加えることで足の甲で大きな力を生み出すことができる。

○2時間続けられる6ビートキックを目指して
ひざの曲げ伸ばしだけを使えばラクな6ビートができる。しかし蹴ることを意識したり、あわてて足を動かすとひざが曲がったままになったり、伸びたままになったりする。同じ時期に自転車を始めたこともあり、腰の使い方でひざをリードできないか考えたところ、腸腰筋を進行方向に引っ張るとひざが曲がることがわかった。今度は腰が支点となる「てこ」の動きである。骨盤を進行方向にゆらすことで腸腰筋が動き、結果としてひざも曲がる。曲がったひざは素早く伸ばすことだけを意識すれば足の力をほとんど使わずに6ビートができる。

このように腰−ひざ−足首の連携により、ラクで長時間続けられる6ビートキックが完成した。このキックの主目的は下半身を上げて安定させることである。ウェットスーツを着用してもともと足が上がっているときでも、うねりに負けないエッジを効かせた姿勢を維持するためにこのキックが必要になる。なお競泳のキックのように、このキック単体による推進力は期待していないが、そのようなモードも研究すれば対応可能であろう。

これまでの最長実施時間は3時間である。2ビートキックでは1時間程度で足がつっていたが、2時間半までは足をつらないでキックすることができた。また足がつりそうになっても6ビートであれば動作をゆるくして続けることができるのもメリットである。時間は1時間程度であるが低温スイムでは威力を発揮している。

○6ビートキックと2ビートキックの使い分け
2ビートのメリットは、

  • 足を動かす回数が少ない。
  • 足とからだと手の動作をつなげやすい。
  • 力を入れるタイミングがわかりやすい。

である。6ビートキックを磨く過程で2ビートキックの足の動かし方もカイゼンしたので、今では場面に応じて使い分けている。

  • うねりのないプールでは2ビートのみも可能。ただし加速のために力を入れようとすると足に負担がかかるので、息継ぎ後の入水など力を入れがちな場面であえて6ビートを瞬間的に入れて力を分散している。
  • 低温スイムでは間違いなく6ビート。
  • うねりの少ない暖かい海では2ビート。潮の流れが強くなり、エッジをかける必要が出てきたときに6ビートに切り替える。
  • うねりやチョップのある海では6ビート。
  • 6ビートを連続して使用する場合、時々2ビートにして力を入れるタイミングを確認し、6ビートにアクセントを付けるようにする。

これまでは2ビートキックの蹴り幅の極小化を目指していたが、キックの目的が多様化したことで2ビートも6ビートも使いこなせるようになった。今後は9時間まで延長できるように、さらに6ビートの効率化を目指すとともに、2ビートも磨きをかける。

竹内慎司TI代表のブログSwim Like Shinjiはこちら→

 ©Easy Swimming Corporation